カヤックは“音の伝達装置”だった?
船体の振動と魚の警戒心に気づいた瞬間
【冒頭】魚がいない?いや、“逃げてる”のかもしれない
「反応ないなあ……今日は渋いかも」
カヤックで出た朝、最初に感じたのはそんな手応えのなさでした。
ベイトはいる。
潮もそこまで悪くない。
でも、魚がまったく食ってこない。
ルアーを変えても、レンジを変えても、音沙汰なし。
その時、ふと思ったんです。
「もしかして、“気づかれてる”のか?」
そしてそこから、今まで考えたことのなかった視点にたどり着きました。
「カヤックって、水中に音と振動を伝える装置なのかも」
【体験】なぜ“叩かれたポイント”では釣れないのか?
これまでに何度も経験してきた「無反応の海」。
でもよく考えると、釣れていたのに、突然沈黙する瞬間ってありませんか?
ナブラが沈んだ、ライズが止まった、バイトが消えた。
魚がどこかへ行ったのではないんです。
何かしらの違和感を感じて、身を隠しただけ。
で、その違和感の正体って、案外、自分が作り出してるんですよね。
たとえば、
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パドルを「ガン!」と落とした
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クーラーボックスのフタを「バチン」と閉めた
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ロッドをホルダーに「カチッ」と入れた
その瞬間、カヤックが共鳴する。
素材がプラスチック系の船体だと、まるで太鼓のように“ドンッ”という低音が響き渡ります。
この“響き”が、**水中の魚にとっては「緊急警報レベル」**の音なのだと気づいたのは、ある出来事からでした。
【気づき】バラした直後に気配が消えた理由
とある日、50cmクラスのマダイを掛けた時の話です。
やりとりの途中でフックアウト。
「あ〜やっちまった」と、無意識に足でハッチを蹴ってしまいました。
「ゴンッ」
その音を合図にしたかのように、さっきまで群れていたベイトが一瞬で散りました。
魚探に映っていた反応も、まるで電源を切ったように消失。
「いや、そんなはずは」と思いつつ、そこから1時間ノーバイト。
“音と振動”が、水中の世界にどれほどの影響を与えているのか、身をもって知る出来事でした。
【構造】カヤックはなぜ「音を伝える」のか?
カヤックは、軽くて丈夫で水に浮かぶための設計をされています。
その特性が、実は音の伝達性を高めてしまっているのです。
▽ 音の伝わり方
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カヤックの素材(ポリエチレン・FRPなど)は振動が船体全体に伝わりやすい
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小さな音でも、ドーム状に共鳴して拡大される
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船体全体が“スピーカー”のようになって、水面下に音を放つ
つまり、あなたがパドルを落とした瞬間、
海中では「ゴォォォン!」という警報が響いている可能性があるんです。
【対策】“気配を消す”ための静音アプローチ5選
「じゃあ、音を出さないようにすればいいんでしょ?」
……と、言うのは簡単なんですが、実際にはかなりの集中力が必要です。
ここでは、僕が実際にやっている“静音化”の工夫を紹介します。
① パドルホルダーに“布”を巻く
パドルを戻すときの「カチャン!」という音を防ぐため、
ホルダーの内側にEVAマットやゴムシートを貼るだけで、かなり静かになります。
② ロッドホルダーは“ゴム製”か“ソフトインサートタイプ”
金属製のホルダーにロッドを入れると、「カチャン!」と響く。
これが水中に響く振動になります。
ソフトな素材を選ぶか、差し込み口にフェルトを貼るなどで改善できます。
③ ハッチの開閉は“片手でゆっくり”
急いで開けようとすると「バコッ!」と鳴ってしまうハッチ。
これを片手で“密かに”開けるように意識します。
ポイントは、常に「釣れる気配のある時こそ音を出さない」こと。
④ 魚を取り込んだら“静かに寝かせる”
暴れる魚をバウに叩きつけると、それこそ拡声器のような衝撃音が水中に響きます。
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フィッシュグリップで口を固定
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シートの横にタオルを敷いて静かに寝かせる
釣ったあとこそ、静かに。次の1尾を釣るための準備です。
⑤ 荷物の“ガチャガチャ音”を抑える
ジグケース、プライヤー、ドリンクボトルなど。
細かな“ガチャガチャ音”も意外と響きます。
EVAマットの上に置いたり、収納ボックスの中にフェルトを敷くことで、揺れによる音を最小限に。
【実感】静かにしただけで釣果が変わったという話
これは誇張じゃなく、本当に実感としてあるんですが、
「音を立てない釣り」を意識するようになってから、1日のバイト数が明らかに増えました。
とくに浅場やシャローでの“違和感のない接近”ができるようになって、
いわゆる「目の前にいるけど食わない魚」が食ってくるようになったんです。
そして何より、海との一体感がまるで違います。
静かに、静かに、
まるで“自然の一部になったように”カヤックを進めながら釣りをする。
その時間は、釣果以上の価値があると思っています。
【締めくくりに】「音は出ていない」ではなく、「出てしまっている」と思おう
カヤックは、**ただの移動手段ではなく、“水とつながる道具”**です。
そのぶん、音や振動にも敏感に反応する装置でもあることを、忘れてはいけません。
「何もしていないのに釣れない」日があったら、
ぜひ一度、自分の“出している音”に耳を澄ませてみてください。
きっと、魚の気持ちに近づける一歩になります。