夏のカヤックは地獄?“直射日光”との戦いに勝てない話
──釣りに来たのに、暑さと闘ってばかりの半日だった
出艇から1時間、「釣りどころじゃねぇ…」と心でつぶやいた
「夏は魚の活性も高いし、朝マズメ狙いで最高じゃん」
そんな気持ちで、7月某日、いつものようにカヤックを車に積み込んで海へ向かった。
朝4時半に出艇。まだ陽は昇りきっておらず、涼しい潮風が肌に気持ちよくて、
「今日は絶対釣れる気がする」と、根拠のない自信に満ちていた。
が、そこから1時間。
太陽が完全に昇り、雲ひとつない空。
風も止み、カヤックの上には「ただただ暑い」という現実だけが残った。
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Tシャツの上からでも突き刺さるような日差し
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足元のデッキがアツアツで、素足では触れない
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持参したペットボトルはすでにぬるま湯
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停泊中は風が通らず、サウナ状態
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魚からの反応は、なし
正直、この時の気持ちを言葉にするなら、
「もう帰っていいですか…」
釣りに来たのに、暑さと戦ってるだけ。
頭がボーッとして、ルアーのアクションも適当になっていく。
気づけば、釣りが“作業”になっていた。
夏カヤックの「本当の敵」は魚じゃない
「夏は海も穏やかだし、出艇しやすい季節だ」
確かにそう。けど、それは“朝のうち”だけの話。
特に直射日光が本気を出し始める8時以降、カヤックの上は完全に灼熱の照り返し地獄になる。
問題なのは、以下のような“夏特有のカヤック地獄ポイント”。
① 日陰ゼロの過酷な環境
岸の木陰もない、日傘も立てられない、360度太陽からの逃げ場なし。
② 水の照り返しで2倍暑い
海面からの反射がじわじわ体力を削ってくる。
特に顔と首元がジリジリ焼かれる感覚が続く。
③ カヤックのシートが熱を溜める
ケツが焼ける。ほんとに。
通気性の悪い安物シートだと、汗でびしょびしょ+熱でムレムレ。
④ ハッチ内部も灼熱、ワーム溶ける
収納していたルアーやワーム、曲がる・溶ける・油出るの三拍子。
⑤ ペットボトルがすぐにお湯
氷入れないと常温以下にならない。
しかも飲んだ瞬間ぬるくて吐き出しそうになる。
釣りがしたいのに、「暑さ対策」で頭がいっぱい。
キャスト回数も減り、モチベーションも下がり、
何のために来たのか分からなくなってくる。
「対策してたつもり」では足りなかった
もちろん、日焼け止めは塗ってたし、ラッシュガードも着ていた。
帽子もかぶって、首には冷感タオルを巻いていた。
でも、それだけじゃまったく追いつかなかった。
「夏の直射日光」は想像以上にエグい。
そして一番の問題は、「暑いから集中力が続かない」ことだった。
アタリを逃す。
ルアーチェンジが面倒になる。
根掛かりしても、外すのがダルい。
移動もおっくうになる。
釣りそのものが“適当”になっていくのが、自分でも分かった。
そして、そんな自分に嫌気が差してくる。
少しの工夫で「生き延びられる」釣行に変わった
次の釣行では、いろんなことを見直した。
完全装備で挑む、というより、「体を守る装備」に寄せた内容に切り替えた。
▶ 水分はキンキンに冷やしたものを2本以上持参
→ 1本は氷ペットにしてクーラーボックスへ。冷たいまま最後まで持つ。
▶ 冷感インナー+アームカバー+顔マスクの三重装備
→ 直射から完全ガード。見た目は怪しいが、効果は抜群。
▶ カヤックの座面下に銀マット+メッシュクッション
→ 熱がこもらず、汗でズブズブにもならない。
▶ タオルは2枚持ち(首&頭用)+塩分タブレットも常備
→ 汗が止まらないときに本当にありがたかった。
▶ 行き帰りに余裕を持ち、日中は無理しない
→ 11時前には撤収する方針へ変更。
“魚を釣る”じゃなくて“無事に帰る”を最優先にしたら、逆に楽しめた
次の釣行。
装備を万全にして、タイムテーブルも調整して挑んだら、不思議と「焦らない釣り」になった。
日差しが強くなったら迷わずポイント移動。
風が出てきたら流し釣りに切り替える。
飲み物もゴクゴク飲んで、汗をかいたらちゃんと休む。
そうすると、不思議なことにアタリも増えてきた。
体力に余裕があるから、アクションも丁寧にできる。
釣れない時間も「暑さでイライラ」せず、海の変化を観察できる。
「熱中症対策」と「釣果アップ」は、実はつながっていたのだと、やっと分かった。
夏は“釣りじゃないもの”との戦いこそが本番かもしれない
釣りに来たはずなのに、何よりも強く印象に残ったのは、
あの“無慈悲な太陽”だった。
魚が釣れるかどうか以前に、
自分のコンディションをいかに保つかが、釣果以上に大切なことだった。
夏のカヤックは確かに地獄になる。
でも、準備と心構え次第で、“気持ちいい朝の釣り”に変えられることも分かった。
直射日光に勝つ方法は、体を冷やすことでも、隠れることでもなくて、
無理しないと決めること、そしてそれを守ることだった。
そんな風に、少しずつ自分なりの「夏対策」ができてきた。
次の夏もまた海に出るだろうけど、あの日の地獄はもう繰り返したくない。
そしてまた、あの朝の静けさと、遠くで跳ねた魚の音に、少しだけ胸を高鳴らせながら、
「今日も、なんとかなる」と呟いてパドルを握るのだ。